GIFT STORY
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2021年3月13日
ギフトを届ける人 vol.3
蓮沼執太さん
ギフトと音楽の共通点は、
目には映らない力があること。
ムードマークのラインナップから、誰かに贈りたいアイテムをクリエーターにセレクトしてもらい、ギフトについて思いを巡らせ、可能性を広げていく連載「ギフトを届ける人」。第3回目のゲストは音楽家の蓮沼執太さんです。現在、4組で借りている東京・中目黒のシェアオフィスHAPPAを拠点に、音楽&アート活動を行う蓮沼さんが考えるギフトとは?
相手の生活空間のどこかにいられるものを考えて
自分のための買い物はすぐに決められるという蓮沼さん。しかし、ギフトとなると慎重派に。
「誰かにギフトを贈るときは、相手のことをすごく考えるから、選ぶのに時間がかかってしまう。でもギフトをあげるのは気持ちの引き締まる感じがあって、好きな行為です。僕もツアーやコンサートでよくお土産をいただくのですが、誰に何をもらったか、結構しっかり覚えています」
かつてニューヨークに住んでいた頃、先輩と食事の約束をした際、何かギフトをと考えて、ステーショナリーを贈ったことがありました。そのエピソードが心に残っているといいます。
「気に入っていたステーショナリーショップがあって、そこで鉛筆を何本か選び、セットにして贈りました。ヴィンテージの文房具も扱っている個性的な店で、他では見つからないような鉛筆を扱っていたんです。先輩は楽譜を書く仕事をしていて、あまり堅苦しくないものにしたかった。そのときもやっぱり喜んでもらえるかどうか、反応が気になってちょっと緊張しました」
楽譜は基本的に鉛筆で書くもの。先輩の制作のすぐ横にあって、普段使いしてもらえるのではないかと思いつきました。「僕のギフト選びは、その人の生活や日常のそばにあると良さそう、という視点が必ず入っています」
シェアオフィスのメンバーに向けて贈るギフト
蓮沼さんに、ムードマークで扱っているギフトを誰に届けたいですか?と尋ねたところ、日頃何かと関わりのあるHAPPAの皆に、と答えが返ってきました。
「ムードマークのウェブサイトにはたくさんのギフトアイテムが紹介されています。数も多い上、ベビー用品から食べ物までとても幅が広い。贈る相手の想定レンジが広いので、逆に誰にあげたいかなと考え込んでしまいました。いろいろと思い巡らせた結果、最終的にスペースをシェアしている身近な人たちに贈りたいなと」
HAPPAをシェアしているのは、建築及びデザインの仕事をしている元木大輔さん、イベントやプロダクトの企画やプロデュースをしている作本潤哉さん、コンテンポラリーアートギャラリーの青山|目黒を運営している青山秀樹さん、そして蓮沼さんの4組。
「まず、作本さんには『何が欲しい?』って聞いてみたんです。こんなにたくさんあるから好きなのを選んで、と。するとこのカイ・ボイスンの木製モンキーがいい、と。即決でした」
理由を聞くと、以前作本さんが働いていたショップで同じアイテムを扱っていたからだといいます。しかもその説明の途中で、お互いに共通の知り合いがいることが判明。
「贈り物をあげるというだけで、人のつながりや人生の背景もわかる。そういう事の次第、流れがとても豊かだなと思いました」
カイ・ボイスン / KAY BOJESEN 木製アニマル モンキーS
美術工芸デザイナーのパイオニアである<カイ・ボイスン>のアイコンとなっている猿の木製オブジェ。1951年の発表以来のロングセラーで、本棚などに引っ掛けて飾ることができます。「価格を考えると自分で買うには躊躇うけれど、もらうと嬉しいアイテム。親しい間柄であれば、こんなふうに相手に選んでもらう贈り方もありだと思います」
アーティストと語り合いながら飲んでほしい
ギャラリーの青山|目黒の青山さんには、麦焼酎のいいちこを。コロナ禍で現在は人が集まれない状況ですが、たとえば個展の内覧会や初日のパーティで、ドリンクや軽食を振る舞う際に提供できます。
「青山さんはお酒好きで毎日飲んでいます。コロナ禍になる前は、ときに若いアーティストとギャラリーで作品を見ながら、飲んで議論を深めていました。それはすごくいいことだと僕は思っていて。コミュニケーションすることで新しい作品が生まれる可能性があるし、ギャラリストがそうやってアーティストとつながりを持っているのが素晴らしい」
三和酒類 / 大分県 30°いいちこ フラスコボトル 麦焼酎
美しい曲線を描くボトルデザインが特徴的な、いいちこのスペシャルバージョン「いいちこフラスコ」。飲み終わった後、フラワーベースにしたくなります。「今年12月に大分のいいちこホールでコンサートをする予定で、先方からいいちこをいただきました。最近は温かいルイボスティーに少し垂らして飲んでいるのですが、それがまた美味しいんです」
違う仕事をしているけれど人間的に通じるものがある
「元木さんにはお肉セットをあげたい。というのも、元木さんはHAPPAのなかで唯一グループ活動をしていて、そこには若いスタッフも多いので、コロナ禍が落ち着いたら皆でお肉を食べてリフレッシュしてほしいと思いました。作本さんの話と通じるのですが、人が集まって食べたり飲んだりという行為は、気持ちの燃料になる気がしているから」
門崎熟成肉の塊肉のセットは調味料も付いているので、届いたら焼くだけという便利なギフト。HAPPAには水屋やコンロもあり、フライパンさえあればすぐに調理することができます。
「僕は基本的には一人で仕事をしていますが、ときどきアンサンブルなどのグループワークがあります。普段はべつの仕事をしているメンバーが、そのときは一つの目的のために集まって仕事をする。それはHAPPAも少し似ていて、この4組は皆職業は違うのですが、ものの見方や人間的に何か通じるところがあって、その関係性が面白いんです」
昨年、アルバム「フルフォニー|FULLPHONY」のCDとレコードをリリースした際は、発売イベント等ができないなか、作本さんが売る機会を作ったほうがいいんじゃないかと提案し、HAPPAでポップアップショップを企画。
「元木さんたちが、HAPPAの建物の外に面したガラス窓を抜き、道側に棚を作ってくれたので、そこで即売会をやりつつ少し演奏もしました。コロナ禍だからできたところもありますが、皆がそれぞれの持ち味を発揮してくれました」
門崎熟成肉 格之進 門崎熟成肉 塊焼・塊肉(霜降り120g×3個)&牛醤 ごちそうセット
肉の旨味を堪能できる「塊焼」3個に牛醤を加えたセット。肉を美味しく食べるために開発された牛醤は、黒毛和牛を原料にして熟成させた調味料。焼き上がった肉に少し付けて食べると肉の味の幅が格段に広がります。「食事はバランスよく食べるタイプですが、肉や魚はメインで食べると本当にパワーが出て、元気になる実感があります」
ノートに書いた断片の集積が作品のコンセプトに
最後に、自分へのギフトとして選んだのはペンシルツリー。
「創作のアイデアが浮かんだとき、パソコンにも打ち込みますが、普段は紙にペンで書き留めています。読書をしていても、気になる箇所があるとやっぱりノートに記します。だから身近なところにステーショナリーを置いておきたい」
心の琴線に触れたことをノートに書き留めておくのは、それが発想の原点や作品のコンセプトになるから。
「たとえば、本は何かテーマがあって読んでいることが多く、それは創作に直結しているのですが、全く別の本を読んでいても気になるところは結局似ている。ノートにメモしているとそれがよくわかるんです。要は、残しておきたい知識や発想が結果的にそのノートにまとめられていく。そういう小さな積み重ねが作品のコンセプトになるんです。制作の途中で迷路に入っても、書きなぐっていたものを見返すと、『ああ、そうだったな』とつながったり風穴が空いたり。この10年くらいずっとそんなふうにやっています」
ファブリアーノ ブティック / FABRIANO boutique ペンシルツリー
ボックスに入っている色鉛筆12本を、1本ずつ木製のベースに挿していくとツリーが完成。<ファブリアーノ ブティック>は、創業750年以上のイタリアの老舗製紙会社が2000年に立ち上げたステーショナリーブランド。「機械が発達してもやっぱりパピルスは偉大だなと思います。紙に残しておくことは大事。僕は割とオールドスクールなんです」
音楽やそこに込めた思いを可視化させて人に届ける
人はなぜギフトを届けるのか、その理由はさまざま。一つにはものを贈るというより、気持ちを伝えることが第一という考え方があります。
「そもそも音というのは見えないもの。音楽のように空気の振動で伝える『表現』は、見えないからこそ想像の広がりが生まれ、そこにいくつもの形を作れて、自由に気持ちを込めることができる。それはギフトと似ていると思います」
祝福や感謝が形となって表れているのがギフトであり、思いや想像が音となって立ち上がり流れ出すのが音楽。
「僕はいつも新曲をリリースするときに見たことがない方法にしたくて、かなりアイデアを練る。それは音や気持ちという見えないものを可視化させ、どう人に届けるかを考えること。配信でのリリースが増えた今、特にそこには拘っています。音楽もそうですが、見えないものの力は果てしない。たとえばラジオから急に音楽が流れてきて、生活の襞に入り込み目の前の色が突然変わることだってある。それが目に見えないものの力だと思うし、何かを届ける気持ちについて考えるきっかけになると思います」
PROFILE
■蓮沼執太
音楽家。1983年、東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して、国内外でのコンサート公演を開催。映画、ドラマ、舞台、ファッションなど、多くの音楽制作を展開。また個展形式での展覧会、プロジェクトを行っている。2013年にアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)グランティでアメリカ・ニューヨークへ渡り、2017年には文化庁・東アジア文化交流史に任命され中国・北京へ。主な音楽アルバムに『POP OOGA』(WEATHER/HEADZ、2008)、蓮沼執太フルフィル『FULLPHONY』(2020)など。主な展覧会に『Compositions』(Pioneer Works, NY、2018)、『 ~ ing』(資生堂ギャラリー、2018)など。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
http://www.shutahasunuma.com/
Photo / Ayumi Yamamoto Text / Akane Watanuki Edit / Takahiro Shibata(Kichi)