GIFT STORY
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2021年5月10日
ギフトを届ける人 vol.4
松島大介さん
自分が欲しいと思えるものを、
かっこ良く贈れる粋な人になりたい。
ムードマークのラインナップから、誰かに贈りたいアイテムをクリエーターにセレクトしてもらい、ギフトについて思いを巡らせ、可能性を広げていく連載「ギフトを届ける人」。第4回のゲストは東京・幡ヶ谷の「PADDLERS COFFEE」代表、松島大介さん。コロナ禍でも人と人とがつながる場をつくろうとする松島さんは、独特のギフトのとらえ方から、“粋”という美意識を見つけ出せる審美眼の持ち主です。
学生時代にポートランドで知ったギフトの楽しさ
ギフトはもらうより贈るほうが圧倒的に好き、と松島さんは言います。
「高校と大学時代はアメリカのポートランドに住んでいました。そのときに気づいたのは、アメリカの人にはクリスマスを筆頭に、家族や友達とギフトを贈り合う文化がありますが、それが記念日以外でも当たり前のように行われていること。僕はそれまで、贈り物なんてほとんどしたことがなかったから驚きました」
普段ヤンチャそうな男の子が、お母さんの誕生日に花をプレゼントしているのを間近で見て、素直に感心した松島さん。自分もやってみようと、母の日にアメリカからオンラインで贈り物を手配。すると到着後にお母さんから喜びと驚きの声が届きました。
「その声を聞いて嬉しくなって。誰かにプレゼントをすること、それを喜んでもらえるのはとても嬉しいと実感しました。それ以来プレゼントするのはもちろん、誰に何をあげると喜んでくれるかを考えるのが楽しくなったんです」
自分が欲しいと思えるものをプレゼントしたい
今回セレクトしたものは、自分がもらっても嬉しいものばかり。このタオルは同じ素材のバスタオルを持っていることもあり、その使い心地の良さは実証済み。ものの良さを知っているアイテムは、相手に安心して贈ることができます。
「このタオルはパシーマという素材を使っています。中に綿が薄く入っていて、水分を拭き取るというよりは吸い取る感覚です。しかも乾きも早い。安全な素材で、赤ちゃんが、口に含んだとしても問題がないから、最近出産した友達にプレゼントしたいなと、ふと思いつきました。このオレンジ色もあまり見かけない新鮮な色です」
パシーマ/pasima 脱脂綿とガーゼのタオル オレンジ
水の町として知られる福岡県うきは市の龍宮株式会社は、長年医療向けの脱脂綿やカッテガーゼを生産。その技術を生かして開発されたのが特殊生地“パシーマ”のタオル。医療用の脱脂綿を重ねてガーゼで挟み込んだ生地は、職人が脂分や不純物を徹底的に落として精錬した無添加仕立て。「何度も洗って乾かしているうちに、すごく柔らかくふっくらしてきます」
あらゆるギフトのなかで最強なのは花
自分がもらって嬉しいものをプレゼントしたいと思う一方で、相手との関係性を考えつつ選ぶ場合もあります。たとえばお世話になっている先輩には、気を使わせないよう、食べ物など一時でなくなるものを贈る。また、会うたびに思い出させるようなものは避けたいときもあります。
「そういう意味では、花は食べ物と同じで、一時でその場からなくなるもの。きれいな瞬間は長くは続かないけれど、箱のふたを開けたら美しい花が1輪だけ入っているというギフトは嬉しいですよね。花束だと気持ちとして重さがあるけれど、1輪だと気軽に友達や先輩にもあげられる。お花はもらって嫌な人はあまりいないから、最強のギフトだと僕は思っています」
アフリカローズ/AFRIKA ROSE 1輪ギフトBOX(一輪挿し付き)イエロー
ケニアから届く生の一輪バラのギフト。ガラスの一輪挿しがセットになっていて、届いたらすぐに飾ることができます。アフリカローズは、アフリカでしか育てられない、品質が良く強いバラを世界中に届けるブランド。花の販売はアフリカから貧困をなくす手助けにもつながっています。「家に花があるとテンションが上ったりリラックスできたり。だから僕はよく部屋に飾っています」
贈り物は必ず手書きのメッセージとともに
松島さんにとって理想的なギフトの渡し方はどんな方法でしょうか。
「それはやっぱり言葉を添えること。僕はギフトに必ず手書きのメッセージを添えるようにしています。オンラインでコーヒー豆や雑貨を買ってくれた人にも、ひと言書いて送る。するとすごく喜んでいただけます。メールより手紙、それも手書きだとより気持ちが伝わりやすい実感がありますね」
手紙に書くことは「いつもありがとう」、「誕生日おめでとう」というような何気ないひと言。でもその手書きの一文に感謝の気持ちがこめられています。
「お花と同じで、手書きの手紙をもらって嫌な人はいないはず。僕ももらっていちばん嬉しいのは手紙です。だからお花と手紙のセットが最高のギフトかもしれません」
メールより手書きという松島さんは、筆記用具にも思い入れがあります。とはいえペンを使うことは日常的すぎて、良いペンを持ちたい願望はあっても実現に至っていません。だからこのペンも自分がもらったら嬉しいアイテムです。
「友達がこれと同じラミーのペンを使っているのを見たことがあって、このヘアラインの樹脂とステンレスの合わさったデザインがかっこいいと思っていました。打ち合わせのときに相手が素敵なペンで書いていると、ディテールを見てしまいます。実は僕、小学生のときの唯一の習い事が習字で、中学でも専攻していました。今でもとにかく字を書くのが得意だし好き。だから店のメニューやインフォメーションも全部手書きです」
手書き文字に特別な気持ちがあるのは、字には人柄が現れるという考えも含まれています。
「店で求人をするときも、応募の条件として必ず手書きの履歴書を送ってもらうようにしています。丁寧さというのは字に現れると思っていて。店を一緒にやっているコーヒー担当の加藤は、コーヒーをつくるのは文字を書くのと似ている、とよく言っています」
ラミー/LAMY LAMY2000 4色ボールペン
ラミーは1930年にドイツで生まれた筆記具メーカー。LAMY2000のボールペンは、1966年に発売されて以来のロングセラーで多くのファンがいます。素材はミニマルな樹脂とステンレス。樹脂にはヘアライン処理が施され、肌触りがよく握りやすいよう工夫されています。「筆記具だから書きやすさは大事。でも見た目の良さも同じくらい大切です」
贈る側ともらう側。両方向の心に残るエピソード
その長年の仕事の相棒、加藤さんが最近結婚。お祝いを何にしようかと熟考、こっそり準備を進めることにしました。
「ずっと一緒にやってきているから、結婚が自分のことのように嬉しかったんです。それで、お祝いは2人とも大好きなフィリップ・ワイズベッカーさんの原画にしようと決めました。でも驚かせたくて、ちょうど個展があったときに思い切って手に入れましたが、彼には内緒。僕だけが個展に行ったので、彼に『どうだった?』と聞かれても、『欲しいのがあった』『ヤバかった!』とごまかして(笑)。1ヶ月後にみんなでお祝いの会をしたときにあげたら、めちゃくちゃ喜んでくれました」
ここぞというときにはサプライズを仕掛けるのも好き、という松島さん。長年の付き合いで相手のことがよくわかっているからこそ、ピンポイントで準備できたプレゼントでした。また、もらったギフトではこんなエピソードが。
「京都のボルツハードウェアストアの人が、節分のときに豆とともに『鬼は外、福は内』をもじった言葉のメッセージを贈ってくれたことがありました。ギフトとしては節分の豆なんですが、そのひと言が添えてあったのが嬉しくて。季節感を感じさせるギフトもかっこいいし、それを気の利いたメッセージ付きで贈れるなんて、粋じゃないですか。僕はそれができる人になりたいんです」
美味しいご飯から教わった、粋な二人のかっこ良さ
ストウブの鍋を選んだのは、フードスタイリストの高橋みどりさんと、東京・恵比寿で「アンティークス タミゼ」を営む吉田昌太郎さん夫婦の家に遊びに行ったときに、あまりにも美味しいご飯を食べたことから。
「土鍋で炊いたご飯をお櫃に移して30分くらい経ってから、いまちょうどいい温度だからと出してくださったご飯がすごく美味しくて。お櫃なんて見たのは何年ぶりだろうっていうくらい新鮮でしたし、ご飯は炊きたてだけじゃなく、少し温度が下がって落ち着いたタイミングでも美味しいと知ったのもこのとき。僕はふだん炊飯器を使っていますが、これはもう直火でご飯を炊くしかない、という気持ちになりました」
熱い思いでセレクトしたのが、このストウブの炊飯用鍋。松島さんの、直火でご飯を炊きたいという意欲が伝わってきます。結婚祝いや引っ越し祝いにも喜ばれそうなアイテム。
「炒めたオイルサーディンをご飯の上にのっけて食べさせてもらいましたが、ひと手間かけるだけでこんなに美味しくなるんだという驚きとともに、その一連の流れが言葉にできないほどかっこよかったんです。帰るときにも僕が好きそうなお土産をパッと渡してくださって。お二人が当たり前のようにやっていることが、僕の目にはとてもかっこよく映りました。それができるのはきっと粋な人。さっきの季節感のあるギフトに気の利いたひと言を添えてくれたボルツの人もそう。祖父がよく『粋な人になりなさい』と僕に言っていましたが、こういうことかと深く感じ入りました」
ストウブ/Staub ラ・ココット de GOHAN Mブラック
直火でご飯が炊ける炊飯用鍋。蓄熱性の高い鋳鉄製で、ふたの裏の突起や丸みを帯びた形は、美味しく炊くためのディテール。お米の水分やうまみを逃さない工夫があちこちに施されています。「僕がツールやギアが好きなのもありますが、日常的に自炊をしなくても、やるときは良い道具を使いたい。デザインも良くて、これがキッチンにあったらいいなと思いました」
ギフトはあげる、もらうという一方向でいい
「僕個人の考えですが、贈り物というのは一方的なものでいいと思っています。たとえば僕がお店を開いた際に、両親の知人からお祝いをいただいて、そのときにはしっかり『ありがとうございました』と伝えました。けれど後日『お返しはしたの?』と親に聞かれて、僕は『え? お返ししないと駄目なの?』と思ったんです。それは勉強になりました。でも本当は、あげておしまい、もらって完結、という一方向でいいと思うんです」
日本には冠婚葬祭など儀礼的な贈り物の文化があって、何かをもらったらお返しをしないと失礼にあたる、とされています。けれどそういう見返りを求める、ある種ギブ・アンド・テイクのようなギフトのやり取りには、やや抵抗があると言います。
「一方的なものというのは自己満足と思われるかもしれません。でもそれでいいんじゃないでしょうか。自分のことを少しでも考えて選んでくれたというのが感じられるだけで、良いギフトだと思うんです」
PROFILE
■松島大介
1985年東京都中野区生まれ。アメリカのカルチャーに惹かれて中学卒業とともに渡米。ポートランドで学生時代を過ごし21歳で帰国。日本で働いては海外を放浪する旅を続ける。2013年、共同代表の加藤健宏氏とともに「PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)」を設立。2015年より現在の渋谷区西原に旗艦店を構えたのち、2018年には家具と雑貨の店「BULLPEN(ブルペン)」のオープンにも携わる。西原商店街の理事も務めている。
https://paddlerscoffee.com/
https://bullpen-shop.com/
Photo / Ayumi Yamamoto Text / Akane Watanuki Edit / Takahiro Shibata(Kichi)