GIFT STORY
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2022年11月19日
寄り添い方から何を贈るかを導き出す。
ギフトは自分との関係性を表すもの。
ムードマークのラインナップから、誰かに贈りたいアイテムをクリエーターにセレクトしてもらい、ギフトについて思いを巡らせ、可能性を広げていく連載「ギフトを届ける人」。第7回のゲストは、ブランディングディレクターの福田春美さんです。贈る相手の背景や事情を何よりも優先し、そこに自分のセンスをそっとのせるのが、ギフト選びが得意だという福田さんのスタイルです。
とにかく「なぜこれを?」と相手を失望させたくない
普段は主にクライアントワークをしている福田春美さん。自分の意見を通すよりは、クライアントの意向からいろいろとプランを練り、プレゼンテーションをする。それを毎週のように繰り返しています。
「その影響か、自分の意見を押し通すより、人の希望を聞いてそれに向き合い、どうすれば喜んでもらえるかを模索するほうに重きをおいています。だからギフトは、相手への寄り添い方に尽きるのかなと思っていて。何を贈るかを考える際、とにかく受け取ってもらったときに『なぜこれなの?』とがっかりしてほしくないので、さまざまなことを思い巡らせます」
付き合いの長い友達の記念日のときは、仲のいい数人でお金を出し合って、旅行やホテルの宿泊、寿司など夜の食事までプレゼントする。また、離婚した女友達には、脚立や瓶を開けるラバーを。まさに寄り添うギフトそのものです。
大好きなベージュのストウブは一人で生活している人に
ストウブの鍋は、家で料理をする人ならまず喜ばれるギフトの代表。福田さんもそれを踏まえて贈っています。
「私もそうですが、便利だし見た目も素敵なので、いくつあってもいいと思える鍋です。結婚のお祝いはもちろん、一人暮らしを始めた人、また離婚した女性に贈ることもあります」
無難な黒ではなく、調理器具ではあまり見かけないベージュを選んでいるのも福田さんらしいセンスです。
「ベージュは大好きな色。ストウブのこの色は珍しくて、使ってみたくなります。上品で落ち着いていてとてもきれい。今乗っている車がベージュだから、嬉しくなって今回はこの色を選びました。以前、ファッションの仕事をしていたときも、ベージュの服が好きだったんです」
ストウブ/Staub ピコ・ココット ラウンド 20cm リネン
熱伝導率と保温性に優れているストウブの琺瑯鍋。ポイントは蓋の内側にある小さな突起(ピコ)。温まった素材から立ち上った蒸気が、再び素材にまんべんなく降り注ぎます。20cmは使い勝手のいい万能サイズで、直火、IH、オーブンの調理方法に対応。「機能の素晴らしさはもちろん、デザインも美しい。特にこのリネンというカラーが上品で素敵です」
洋服かと見紛うエプロンはコロナ禍で重宝
キッチンで使うツールとしては、エプロンも家で料理をする人にとっては必須のアイテムです。
「コロナ禍になってから、皆さん家にいる時間が増えていると思います。リモートで仕事をしながら家事もこなさなければならない、という場合も少なくありません。そういうときにこのような、一見ジャンパースカートやワンピースに見えるエプロンは、洋服の感覚で身につけられ、しかもオンとオフでその都度脱ぎ着しなくていいので本当に便利。後輩とか、気楽な距離感の人に贈るにはちょうどいいギフトです」
宅配便が届いたとき、ゴミを捨てに行くとき、近所で用事を済ませなければならないとき。無造作な部屋着の上からさっと着ると、見せたくないところが隠れてちょうどいいデザイン。
「ライフスタイルストアでエプロンは鉄板のアイテム。気に入ったものを探そうとすると、意外と見つからないという話をよく聞きます。肩紐が落ちやすい、紐が平たくないと、あるいは丸くないと肩が凝るなど、機能面でも個々の細かい希望がたくさんあるので、理想的な一枚に出合うのがなかなか難しい。個人的にはファッションブランドが本腰を入れて、素敵なエプロンを作れば面白いのに、と思っています」
ラシキ/RASHIKI エプロンドレス グレー
ユニフォーム専業メーカーが開発した、ジャンパースカートのような形のエプロンドレス。胸当ては大きめ。スカート部分は余裕を持たせ、背後のウエスト部分にはゴムを内蔵。背中でクロスする肩のストリングは、両脇のボタンで調節できるので、首への負担が軽減されます。ディテールまで計算された作り。「パジャマの上から着ても違和感がないので、急に届いた宅配便を受け取るときにいいんです」
手軽に買える雑貨やお菓子をストックしておく
ギフトを贈るのが得意なほうだと語る福田さんですが、贈り方のコツはどこにあるのでしょうか。
「旅が多いので、旅先の骨董店さんで小さくて手頃な値段の雑貨を見つけたら、いくつか買っておきます。キッチン道具の荒物が好きだから、そういうお店では1,000円前後で売っている、金物や小さなブラシとかをまとめ買い。女性の友達はそういう料理道具などをあげるととても喜んでくれます。また、日持ちのするお菓子も何種類か必ず家にあります。要するにいつもストックしておくんです」
仕事やプライベートで人に会うことの多い福田さんの贈り物術は、幅広く喜ばれそうなものを自宅に用意しておくこと。
「誰かに会う予定のあるときは、そのストックから持っていきます。出張先だとどんな人に何人会うかわからないので、誰にというよりは相手との距離感で準備しておく。突然今からこの人に会わなきゃ、というときは、その人だけでなく、他にも誰かがいると予測して、一つ二つ、多めに持って出ます。それはもう癖になっていますね」
反対に、もし好みのものではないギフトをもらった場合、感謝の気持ちと、センスが合わなくてどうしようという複雑な気持ちとで二極化してしまうといいます。そのような引き裂かれた経験があるから、あげるときは考えに考えるのかもしれません。
ヘリコプターからの素敵な夜景を贈ったはずが…
渡すときの演出や、ラッピングにはあまり凝るほうではありませんが、最近気に入っている方法があります。
「骨董など古いものを扱う店で、使えなくなった日本の昔の楽譜を見つけたら手に入れておきます。何かをラッピングしなくてはいけないときは、それをバラバラにして包むと可愛く仕上がるんですよ」
ギフトにまつわる最も印象的なエピソードは、30代の頃、毎年各々の誕生日にお祝いをする3人組の一人に贈った、冷や汗からの大爆笑という顛末の体験型プレゼント。
「ある年、その子にプレゼントしたのは、ヘリコプターで東京の夜景を遊覧飛行したあとホテルの高級中華料理店へ、というコース。しかし強風のためヘリコプターが直前で飛行中止に。計画した私ともう一人は焦りに焦って、急遽思いついたのが、秋葉原の巫女カフェ入店という、3人ともまるで馴染みのない出たとこ勝負のアイデアでした」
ハイブランドで着飾った3人が恐る恐る巫女カフェに入ってみたものの、非日常のオタクな世界に困惑するばかり。
「そこで、知り合いにこっそりと頼んで用意していた、彼女の大好きなアーティストが『お誕生日おめでとう』とコメントする、彼女のために特別に撮ったメッセージ動画を見せたんです。すると彼女が急に泣きだして。もう巫女カフェでテンションがどん底まで下がったかと思えば、次の瞬間急上昇。かなり情緒不安定な誕生日と化してしまいました。今思い出しても劇的で笑いが止まりません」
自分では買いづらい、質のいい日用品をギフトに
ボトル入り洗濯洗剤などの上質な日用品は、自分ではなかなか買いづらいけれど、ギフトでもらうと嬉しいものの一つ。それ後愛用するきっかけになる可能性も秘めています。
「相手のことを少ししか知らなくても、きょうは手土産を持って行ったほうがいいなというときは、洗剤やお菓子など消えるものにしています。食器洗剤やランドリーキットは、劣化しにくく日持ちがするのでギフトにしやすい。パッケージがきれいだと置いておいてもストレスになりません」
消えるものが最も手軽なギフトと考えると、やはりお菓子類が最初に頭に浮かびますが、福田さんは高級なジュース類も間違いないと言います。
「美味しいジュースや調味料はギフトの王道です。どんな趣味の人かわからない場合はなおさら。お酒は飲めない人も多いので。それから、親しい誰かの自宅で集まるときは、旬の高級フルーツを持っていくと歓迎されます。生菓子を手土産にしがちですが、ケーキを作ってくれているかもしれないし、すでに誰かが用意している可能性も高い。旬のフルーツだと、残っても翌日その家の人に食べてもらえますから」
ザ/THE THE 洗濯洗剤
人と環境を考慮して商品開発を続けるTHEは、クリエイティブディレクターの水野学や、中川政七商店の中川政七も携わっているブランドです。この液体洗剤は、界面活性剤の量を少なくして生分解速度を上げ、環境に負荷をかけないよう配慮しています。「質の良い洗剤はなかなか自分では手が出ないアイテムなので、消えるギフトとして最適」
仕事で追い詰めてしまっている男性には断然お肉
「消えものというと、仕事でとてもお世話になった、特に男性の方にはお肉を贈ります。無理を言って頑張っていただいたウェブデザイナーとか、かなりギリギリなのに締め切りまでに納品してくださったグラフィック系の人とか、本当に追い詰めてしまっている方たちには、お詫びも込めてお肉ですね」
肉類のギフトは、家族がいる人や子どものいる家でもとても喜ばれます。
また、福田さんは以前、親しくしている家族へのギフトを探すのに、デパートをフルに活用したといいます。
「その家族の2人の娘たちは、ちょうどキャラクターものが好きになる年頃。だからもう、夫と妻と娘たちという具合に、3つに分けて考えました。娘たちには子ども服の売り場で小さなキャラクターがついている素材のいい服を、夫にはステーショナリーを、妻には料理道具を、デパートで買い揃えました」
アイズミート セレクション 国内産黒毛和牛 ヒレステーキ用
アイズミート セレクションは全国各地の銘柄牛、豚を揃えている肉の専門店。伊勢丹にも店舗を構えています。この黒毛和牛のステーキ用のヒレ肉は、牛肉のなかでもひと際柔らかく上質な部位なので、シンプルに焼いて、塩などで食べると素材の持つ旨味がそのまま伝わってきます。「こちらが無理を強いてしまった男性クリエイターの方々に、お詫びの気持ちで贈ります」
オンラインギフトはお中元やお歳暮に活用
オンラインのギフトは、仕事でお世話になった会社や人、親戚など、熨斗をつけるような、かしこまった形で贈るときに使っています。
「フリーランスなのもあって、仕事を巡る状況がその年によって変わります。調子の悪いときほど礼儀として、お中元やお歳暮をきちんと贈っておくと運気が上がると聞いたことがあるんです。なので、40歳になる少し前から必ず手配するようになりました」
意外にも、それまでは今ほどギフトを贈ることが得意ではありませんでした。でも、まめに用意することで習慣になり、不思議と仕事も途切れなく声がかかるように。
「お中元やお歳暮は時候の挨拶の意味もあります。最近SNSを見ると、あえて季節を大切にする人が増えてきたように感じます。例えば、夏前になると梅を漬けましたとか、年末に近づくと酉の市の熊手の写真をポストする人が結構いて。季節と暮らす感覚が、また戻ってきているのかもしれません」
相手とのちょうどいい関係を、もので表すのがギフト
福田さんにとってのギフトは、相手を思っている気持ちの厚みを表すものです。
「自分と相手との人間関係の間にあるちょうど良さを、もので表現しているという気がしています。だからコミュニケーションツールでもありますね。日本古来のギフトも、運気が上がるという話以前に、お世話になったお礼として贈る。それは大人として意識しておかないと、と思っています」
PROFILE
■福田春美
1968年、北海道札幌出身。セレクトショップのバイヤー、ディレクターなどを経て、2006年自身のブランド『Hamiru』をスタートさせる。2011年よりブランディングディレクターとして活動開始し、ライフスタイルストアやホテルなどを手がける。最近の仕事は、京都・八瀬の宿「moksa」、山口県萩市の町家をホテルなどにリノベーションした「舸子(かこ)176」の茶寮や、ギャラリーのクラフトアイテムをブランディング。
Photo / Ayumi Yamamoto Text / Akane Watanuki Edit / Takahiro Shibata(Kichi)