GIFT IDEAS
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2021年1月29日
京都の伝統技法でつくられる
「京鹿の子絞り」とは?
分業制で「絞り」が生まれる過程を片山文三郎商店の片山一雄さんと巡りました。
2015年に100周年を迎えた『片山文三郎商店』では、京都で古来から伝わる「絞り染め」の技法を活かした革新的なデザインのプロダクトを発信しています。ムードマークでは、京都で継承されてきた職人達の「絞りの技」を、片山文三郎商店の三代目・片山一雄さんに案内していただきました。作り手の気配りや、熟練の技を目の当たりにし、改めて絞り染めの魅力を知る機会となりました。
<ブンザブロウ>のデザインを決める「絞り染め」とは…
絞り染めとは、布の一部を紐でくくり、圧をかけることで防染し、布を紐でくくったまま染色することで、染まる部分と染まらない部分が生まれる染めの技法です。染まった部分と染まらない部分で、様々な意匠や柄を表現してきました。
絞り染めには、各工程の熟練した技を持つ職人が数多く携わっています。その代表的な工程をご紹介します。
絞り染めの行程―下絵作り
京都の伝統技法の特長の一つに、各工程の分業性があげられます。絞り染めが製品になるまでにも、多くの職人たちの元を辿ります。片山文三郎商店の展開する和装では、オリジナルの図案をおこし、その図案を表現していくために、数多くの職人たちの手を介し、絞り染めの魅力を存分に引き出した和装を生み出しています。
絞り染の最初の工程となるのが絞り染めの設計図とも言える「下絵作り」です。作りたい絞り染めのイメージが浮かんだら、片山さんから下絵職人さんにそのイメージを伝え、下絵職人さんがそのイメージから図案を起こし、型紙に刻んでいきます。片山文三郎商店では、下絵職人・服部好三さんに下絵を依頼しています。
陽がやわらかく射し込む和室で作業を行う服部さんを訪ねると「片山さんからのお題が一番難しい(笑)。職人の頭を悩ませるようなお題を投げかけてくれますね。熟考する時間が必要なお題だからこそ、勉強するし、こちらの技術もあがっていく」と服部さん。
服部さんは「下絵の先の工程を受け持つ職人たちが仕事をしやすいように」と配慮しながら、着物の反物一反に数万とある括りのための穴を、一つひとつポンチを使って開けていきます。生地の縮み具合や、括る糸の種類の違いなどを計算しながら下絵を起こし、図案に起こしていく技術と根気が求められる工程です。
下絵作りを終えた布は、括りの職人の手に渡ります。
絞り染めの工程―括り
片山文三郎商店には、機械で絞りの括りを行うアイテムもありますが、一部の商品については手括りで絞りを行っています。絞りが生み出す凹凸をそのままデザインに活かしている片山文三郎商店の商品にとって、その造形を左右するモチーフが、この絞りです。
手仕事で括りを行う商品は、纐纈(こうけち)職人の手によって、ストール1枚分で約2週間、大きいアイテムなると約3か月かけて、1つひとつ手仕事で絞りとなる箇所を括っていきます。
写真は、大唄(バイ)絞りのスカーフの括りを行っているところ。大判のスカーフを3枚重ね、3枚分のスカーフの括りを約1カ月かけて行います。
絞り染めの工程―染め
括りを終えた布地は、染工場の職人の手に渡ります。
また、単色ではなく2色以上で染める場合は、括りの後、特製の桶に防染する部分を入れて、蓋をして固く縛り、桶ごと染料に入れていきます。特製の桶に、括りを終えた布地を染色用にセットする作業にも、専門の職人がいると聞き、あらためて京都の街の分業システムに驚かされました。
今回は、片山文三郎商店がいつも依頼している和田染工所を訪ね、単色染めと桶染めを見学させてもらいました。
もくもくと湯気が湧き上がる大きな窯の中に、粉の染料をだまにならないよう「通し」というザルのような道具で濾しながら溶かしていきます。
この時のお湯の温度は約90度。その中に括りを終えた布地を入れ、2本の棒を使って布地を窯の中で泳がせ、染め上げていきます。職人の感覚で、染めあがったタイミングを見計らって窯から引き上げ、冷水に染めあがった布を入れて、余分な染料を落としていきます。
桶染めの場合、桶ごと窯に布地を入れ、同様に色味の具合を職人がチェックしながら、見本の発色と揃うよう微調整をしながら染めていきます。
こうして、数々の職人の手を渡って、絞り染めが仕上がっていきます。
片山さんに聞く「絞りの魅力」
「絞りの魅力は、手のあとが残ること」だと片山さんは語ります。
「絞りを括った人や染めた人の手仕事から生まれる絞りだからこそ、そのムラや染め具合に人の手のあとが残ります。この手のあとが残る、ということが私にとってはアートに通じるものだと思っています」片山さん。
人の手で作業をするからこそ生まれる“揺らぎ”のようなものを感じとることができるのも、「絞り染め」の魅力なのだと。
片山文三郎商店のこれから
2015年に100周年を迎え、今もなお「絞り染め」の魅力を引き出す新たなクリエーションに挑戦を続けている片山文三郎商店。三代目の片山一雄さんに、これからについて伺ってみました。
「未来に向けて、絞りを残していかなくては、といった気負いは実はあまりありません。ただ、絞りがある環境に生まれ育ち、絞りを生業として数十年。絞りの魅力を熟知しているからこそ、自分自身がいいと思える『絞り』を発信していきたいという思いでものづくりをしています」と片山さん。
片山文三郎商店とは
1915年(大正4年)、京都で創業した『片山文三郎商店』は、江戸時代、京都で磨き上げられた「絞り染め」という技法を活かした革新的な商品を多数生み出しています。
初代・片山文三郎が「京鹿の子絞り」専門の呉服製造元として創業した『片山文三郎商店』。三代目の片山一雄さん(現社長)が継承した1990年代から絞りを使ったインテリアやファッション分野に進出してきました。「伝統は革新の中にあり」を座右の銘とする片山さん。絞り染めのダイナミックな意匠と造形美を活かしたクリエーションを追求し、片山文三郎商店が手掛ける<ブンザブロウ / BUNZABURO>の唄絞りのスカーフは、MOMA(ニューヨーク近代美術館)のミュージアムショップでも販売されるほど。
今回も自由な発想で、現代のニーズにマッチした新作「mini-mini Bag 」の製作にあたった。