【INTERVIEW】陶芸家・鹿児島睦さん
ー「モノづくりへの思い」と「自分と作品の距離感」とはー
朗らかな魅力溢れる動物や植物をモチーフにした作品を数多く手掛ける鹿児島睦さんは、日本にのみならず海外でも多くのファンを持つ引く手あまたの人気陶芸家。
ムードマークでは、鹿児島睦さんのセカンドライン「MFL makoto kagoshima」のマグカップやカップ&ソーサー、キャンディプレートなどを展開しています。また、いがらしろみさんの手掛ける洋菓子ブランド「romi-unie」と鹿児島睦さんのコラボレーションで誕生したオリジナルギフトセットも、ムードマークの人気ギフトです。
今回はムードマークでは、柔らかな陽射しの入るアトリエに鹿児島睦さんを訪ね、お話を伺ってきました。かわいらしさと共に、どこか飄々とした雰囲気も漂う鹿児島さんの作品はどうやって生まれるのか。そして、鹿児島さん流の「自分と作品の距離感」についてもお話頂きました。
「12年のサラリーマン生活が作家になるための近道だった」と語る、鹿児島さんの思いとは。丁寧に言葉を選びながら、にこやかにお話される鹿児島さんのアトリエの雰囲気が伝わる写真と共にお届けします。
※ムードマークで販売中の鹿児島睦さんが手掛ける一部商品は、3月2日(水)より伊勢丹新宿店でも販売いたします。
・2022年3月2日(水)~3月15日(火)
・伊勢丹新宿店 本館5階 センターパーク/ザ・ステージ#5
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職人さんたちと一緒に作る「MFL」の面白さ
「MFL」とは、鹿児島睦さんが手掛けるプロダクションモデルのセカンドラインに付けられた呼称です。MFLとは、Modern Fantasy Laboratoryの頭文字で、鹿児島さんの敬愛するウィリアム・モリスが「モダンファンタジーの父」と呼ばれていたことにインスピレーションを受けたといいます。
鹿児島さんが造形から絵付けまで作陶の過程をすべて一人で行うハンドメイドの作品を「makoto kagoshima」と位置付けるのに対して「MFL」では鹿児島さんがプロダクトのカタチをデザインし柄を描いた後、職人さんたちに製造を委ねて作っていくプロダクションモデルになります。
MFLの商品を作るにあたって、まず鹿児島さんがプロダクトのカタチをデザインし、そのカタチにあった柄を描きます。その後、実際の工程を請け負う職人さんに「この仕事はいくらに設定したら、楽しく続けていただけるでしょうか?」と投げかけるところからスタートするといいます。
その心を鹿児島さんに訊ねると「本当にいい技術を持っている人が、安い賃金で技術の低い仕事だけを求められてしまうと、せっかくの知識や経験、技を発揮する機会がなくなってしまうから」という答えが返ってきました。
多くの工業製品は、最初に商品価格が設定されているために、その商品価格からデザイナーや問屋、制作過程の職人さんたちへのギャラが自ずと決まってきてしまう風潮があります。結果、職人さんたちへの賃金は、本人たちの希望する額よりも低くなってしまうことも…。
ただ、先に職人さんたちに希望の賃金を訊ねることで「この仕事を、この価格でやらせて頂きたいです」と返ってくるそう。そして、納得のいく賃金で仕事を受けた職人さんたちは、それぞれの持つ知識や経験、技を活かして、鹿児島さんのデザインしたプロダクトを「もっと良くなる方法がありますよ!」ブラッシュアップしてくれると鹿児島さん。
基本的に鹿児島さん一人で完結させている「makoto kagoshima」とは違い、職人さんたちとのコミュニケーションによって成立しているのが「MHL」のプロダクト。「職人さんたちと対話を重ね、彼らの知恵を授けてもらうのが『MFL』の楽しさですね」
当たり前は、当たり前じゃないという気持ち
鹿児島さんがMFLに取り組む面白さはこんなところにも。陶器を作る過程は、粘土を作る人、量産するための原型(石膏型)を作る人、陶器に転写シートを貼る人…など、様々な工程が分業制。だからこそ、その一つひとつの工程のプロフェッショナルがいるのが醍醐味。
「私がデザインしたカタチや柄を二次元から、器のような三次元に落とし込むのが難しくても、職人のみなさんが施策を重ね、よりよいカタチに調整してくれるんです。彼らにとっては、ベストを尽くして美しく仕上げるのが当たり前という思いを持ってくださっています。ただ、その当たり前というのは、決して当たり前ではなくて、彼らの長年の知恵や技術の積み重ねが成せる技なんですよね。転写一つとっても、ただ私が描いた柄を転写するのではなく、どうしたらより美しく再現できるか尽くしてくださいます。
カップのカタチ一つとっても、原型を長く作られている職人さんは『カップの縁に指がかかってしまうから、一ミリ高さを上げますね』など、提案してくれるんです。
私からはざっくりとしたイメージを伝えるだけで、あとは職人さんたちが一生懸命良いものを作ろうとデザインを磨いてくれる。結果として、MFLでは面白い仕事が出来ていると思います」と続けます。
曲面のある3Dのソーサーに2Dのシートを貼るとシワが寄って辻褄が合わなくなってしまいます。シートの柄の空白の部分に小さなパンチで穴を空け、シワやゆがみをそこに寄せて逃し、ソーサーやカップにピッタリと柄のシートを貼り合わせていくんです。
鹿児島睦さんが考える「作品と自分の距離感」とは
鹿児島さんの描く動物たちは、朗らかな印象も受けつつ、どこか飄々とした佇まい。女性だけでなく、男性でも使いやすい凛とした表情も印象的です。その表情にも、鹿児島さんなりのこだわりが。
まだ自分の作品を作りはじめたばかりの頃には、上手く仕上がった自分の作品を手放すのが寂しかったり、悔しかったり、自分の一部がどこかにいってしまうような感覚があったという鹿児島さん。ただ、ある時からプロの仕事として「本当に自分の気に入っている作品から手放してくのがプロフェッショナルだ」という思いに至ったと語ります。
手放したくないようないい作品が出来たのなら、それを世に送り出すと同時に「次はもっと手放したくなくなるようないい作品を作ろう」という思いを新たにすると鹿児島さん。
そして「作品と自分」「モチーフと自分の間」にも、距離を取るというのが鹿児島さんの流儀。描くモチーフに対して、かわいいと思う感覚は持ちながら「かわいさの対象は、モノそのものにあるのではなく、自分とモノの中間ぐらいにある気がします」と続けます。
鹿児島さんが描く動物たち、実は目が合わないように描かれています。そんなところにも「ストーリーは作り手が描くものではなく、受け手が想像するもの」という鹿児島さんの思いが込められているよう。
モチーフに愛着は持ちつつも程よい距離感を保ち、自分を投影するのではなく「誰しもがかわいいと思える作品」を客観的に見ていきたいという鹿児島さん流のモノづくりへの姿勢を、ここでも一つ感じた気がします。
鹿児島睦さん流の「色の選び方」
優しいトーンの色彩が印象的な鹿児島さんの作品。この色彩の選び方を訊ねると「実は、あまり考えていなくて…」と意外な答えが。
「私自身、家で普段使いする食器には白が多いんです。世の中には使い勝手のいいシンプルな食器はたくさんあるので、私が作品を作る時には、あえて使い勝手は考えずに作るようにしています」と鹿児島さん。そんな思いと共に、学生時代の恩師の言葉を思い出すと続けます。
「使い勝手がよければ、見栄えに少々問題があっても、次第に美しく見えてくる。使い勝手が少々悪くても、好きだと思って使い続けていれば、自分の身体がそれに歩み寄って、次第に使いやすくなってくる」という恩師の言葉だそう。
「だからこそ、自分が面白くて、楽しいものを作っていけばいい!という、どちらにも転べる言葉なんですね(笑)」
サラリーマンと作家の共通項
意外なことに「作家の仕事はサラリーマンの仕事と共通するところがある」と鹿児島さん。12年間インテリア関係の仕事でサラリーマンをやっていたことが、今の仕事をするための近道だったと、鹿児島さんは振りかえります。
「お客さまに納得していただける提案を、自分の知識を織り交ぜながらプレゼンテーションしていくこと。独りよがりでなく、相手のために仕事があると思えること」を12年間のサラリーマン生活で学んだことが、今の陶芸家としてのキャリアに繋がっていると鹿児島さん。
「もし社会に出ることなく、作家になっていたとしたら、今の自分はなかったと思う。独りよがりでなく、相手のためのモノづくりであるという思いを持てたことは、サラリーマン生活を通じて得た大きな学びです。
いいモノを見ていて感じるのは、自分のために作っている作品なのか、世間の人に向けて作られたモノなのか、だと考えています。大切なのは、自分の好きと相手の好きのバランスですよね。見る人にはそれが分かるんじゃないかと思っています」と。
インタビューの終わりに、2022年の展望を伺うと「叶うのであれば、海外に行ったり、東京の美術館に入ったり、いいものを精一杯吸収してモノづくりに還元していきたい」と鹿児島さん。
「ついつい連れて帰ってきてしまう(笑)」というお気に入りのアイテムに囲まれたアトリエでは、新たな展示会に向けた制作も進行中だそう。これからどんな作品が届けられるのか、心待ちにしたいですね。
Photographs by Nonoko Kameyama