熟成の芸術!生ハム職人・田嶋さんの生ハム原木。

佐賀県太良町の自然環境と生ハム職人・田嶋さんの情熱が生み出す“長期熟成生ハム原木”は、まさに「熟成の芸術」。
屠畜後の新鮮な豚肉を使用し添加物不使用にこだわり、15~16ヶ月もの長期熟成を経て誕生する生ハムの原木。
スライスすれば、熟成ならではの豚肉の甘い香りと香ばしいナッツのような芳醇な香りが鼻をくすぐり、口に含むと深いコクと旨味がじんわり広がる贅沢な味わい。ヨーロッパの本格生ハムにも引けを取らない唯一無二の一品です。「日本の地で、こんなに奥深い生ハムが作れるなんて!」 ー 思わずそんな感動を覚えます。
まずは“生ハムの原木”の魅力を体感
生ハムの原木を見たことはありますか?
骨付きのまま乾燥・熟成させる“生ハムの原木”は、見た目の迫力だけでも思わず歓声が上がりそう!でも、本当の感動は、その豊かな香りと味わいにあります。

熟成庫で熟成される生ハムの原木。温度湿度管理に加え、14ヶ月以上もの間、一点一点田嶋さんが細かく状態をチェックする。

口の中で優しくとろける甘みのある脂身が特徴
スライスした断面に鼻を近づけると、ほんのり塩を含んだ空気と熟成中に生まれた芳醇なうまみの香りがふわりと広がります。口に含めば、まず脂身がやさしく溶けていき、旨味のある肉の味わいが舌全体を包み込みます。まるでナッツを思わせるまろやかな風味で、噛むほどに熟成由来の甘みがじんわりと湧き出してくるのです。
そして赤身の部分は、噛むたびに異なる表情を見せてくれます。初めは程よい塩気をともなったしっかり目の肉のうまみ、そのあとに追いかけてくるほのかな甘さ。さらに奥底からは、フルーツのように軽やかな酸味が顔を出し、余韻がゆっくりとほどけていきます。
この複雑で奥行きのある味わいは、ワインやクラフトビールはもちろんのこと、日本酒にも意外と相性が良さそう。パーティーの席で目の前でスライスすれば、その場の空気が一気に盛り上がるのは間違いありません。しかも吊るしておけば2年、3年と熟成が進み、味わいがどんどん深まるのも原木生ハムならではの楽しみ方。
朝のトーストにのせるだけでちょっぴり贅沢な気分になったり、サラダのトッピングにすれば、野菜の瑞々しさとのコントラストが一層際立ったり。切りたての生ハムだからこそ感じられるみずみずしい香りとコク深い余韻は、一度口にすれば忘れられない“特別な一枚”になるはずです。
生ハム原木の楽しみ方のコツ
1. スライスは薄く
骨に沿ってナイフを入れながら、脂身と赤身をバランス良く削ぎ切りに。薄く切るほど、口どけの良さと香りの余韻を存分に楽しめます。
2. 追加熟成で味わいの変化を楽しむ
直射日光や高温多湿を避け、風通しのいい場所に吊るしておけば、2年、3年と熟成が進み、味の深みが増していくのも原木生ハムの醍醐味。
3. 合わせるお酒は自由自在
ワイン、ビール、日本酒やハイボールなど、自分の好きなお酒とのペアリングを試してみましょう。サラダやパンと一緒に食べるだけでも、いつもとは違う贅沢なひとときになります。
佐賀県太良町という恵まれた環境

この生ハムを生み出すのは、佐賀県の最南端・太良町。有明海に面し、西には多良岳山系が連なる自然豊かな地域です。干満差が日本一大きい有明海は、有明海苔や竹崎ガニ、竹崎カキなどの海産物が有名で、温暖な気候を活かし、ミカンやイチゴなどの果樹栽培も盛ん。

太良町は、“東からの潮風”と“西からの山風”が合わさる独特の気流があり、さながら日本の地中海と言った感じです。これが生ハム熟成に理想的な環境をもたらします。しかも年間を通じて暖かく、ヨーロッパに比べて高温多湿の日本の気候下では、絶妙な塩加減と熟成ペースを見極める職人技が欠かせません。長年の研究と経験を重ねてきた技に、この土地ならではの気候や風土が掛け合わさることで、香り高い仕上がりが実現しているのだといいます。
肉屋のDNAを受け継ぐ田嶋さん

長期熟成生ハムの原木に情熱を注ぐのは、田嶋畜産の2代目・田嶋征光(たじま・まさみつ)さん。
昭和43年、太良町で独立した父・勝治さんが創業した当初、町内には7軒もの豚肉専門店があり、養豚が盛んな地域でした。「ただの肉屋で終わりたくない」という父の言葉を胸に、田嶋さんは日本獣医畜産大学で食品衛生や肉の加工技術を学びます。その後、神奈川県のハム製造会社で修行し、地元へ戻って新たな挑戦を続けてきました。
「一度始めたら妥協しない」
田嶋さんはそう語りながら、ハム・ソーセージづくり、さらには長期熟成の生ハムづくりへと歩みを進めていきます。

シャルキュティエ田嶋のお店
ドイツの国際コンテスト「SUFFA」での快挙
田嶋さんの名が一躍知られるようになったきっかけは、ドイツの国際食肉加工品コンテスト「SUFFA」。
知人を通じてドイツ香辛料メーカーとのつながりが生まれ、「せっかくならハムやソーセージを本場で評価してもらおう」と奮起。地元・太良町で製造した製品を送り出し、2006年の大会で20品目中18品目が金・銀・銅メダルを獲得するという快挙を成し遂げます。
粗挽き・細挽き、牛肉を使うドイツスタイルなど複数の手法を高いレベルで再現した点が称賛され、日本におけるシャルキュトリー技術の可能性を示しました。

SUFFAの賞状を手にする田嶋さんの優しい表情が印象的だった。
スペインのハモンセラーノとの出会い
ドイツのコンテストを終えた帰り道、田嶋さんはスペインへ立ち寄り、ハモンセラーノの工場を見学する機会を得ます。そこにずらりと並ぶ生ハムの原木と、熟成庫に漂う芳醇な香りを目にし、
「保存食というイメージだった生ハムが、こんなにも奥深い世界だったとは」
と、生ハムへの情熱が急激に高まりました。しかし同時に、高温多湿な日本でこれを再現するのは難しいだろうと感じ、その場での着手は見送ります。
とはいえ、この“スペイン体験”が田嶋さんの胸に火をつけたことは間違いありません。「いつか地元・佐賀でもこんな生ハムを作りたい」という思いが、後に大きな飛躍へとつながっていきます。

秋田の生ハム職人・金子さんとの出会い
本格的に生ハムの長期熟成へ踏み出す大きなきっかけとなったのは、秋田県・田沢湖近くで生ハム工房「グランビア」を営む金子さんでした。
スペインで体験した生ハムの魅力を諦めきれなかった田嶋さんは、ネットで金子さんの工房を見つけ、どうしても話を聞きたいと連絡。その熱意に応える形で「一度秋田へ来てみませんか」と声がかかり、現地を訪れた田嶋さんは、スペインで嗅いだあの懐かしい香りを思い出したそうです。金子さんの熟成技術と情熱に深く感銘を受け、「生ハム作りは科学でもあり芸術でもある。そして地域性を活かすことが大事だ」という言葉を胸に、ノウハウを学びはじめます。
金子さんはカビが与える影響や高温多湿に対応する方法など、企業秘密になりそうな部分まで惜しみなく共有。「日本の気候でも、やり方次第で長期熟成生ハムは作れる」という希望を、田嶋さんに持たせてくれたと言います。

伝統的な生ハムの産地では、生ハムの「内側を脂肪分で塗り管理する」という。
田嶋さんも熟成中の内側の乾燥を抑え、内部の水分バランスを保つため、ラードを塗り、表面の乾燥と衛生管理を丁寧に行う。
佐賀ならではの独自製法を確立
秋田で得た学びと、太良町の自然環境を活かすことで、田嶋さんは高温多湿への対策や微生物管理を徹底。試行錯誤を繰り返し、“佐賀独自の生ハム製法”を確立しました。
「素材に寄り添い、地域の風土を信じれば最高の味が生まれる」
という金子さんの言葉どおり、有明海からの潮風と多良岳の山風を巧みに利用しながら1年以上熟成させた原木には、深いコクと香りがしっかりと宿っています。こうして完成した「15~16ヶ月熟成の国産生ハム原木」は、ヨーロッパの本格生ハムにも負けない逸品へと進化したのです。

工場に併設されたショップでは、出来立ての新鮮な商品が並ぶ
添加物不使用へのこだわり
田嶋畜産のハムやソーセージ、生ハムには、もう一つ大きな特徴があります。屠畜から6時間以内の豚肉を使用することで、肉本来のうま味や粘着性を最大限に活かし添加物不使用でも美味しい加工食品をつくることができる技術です。
豚肉、長崎五島灘の塩、北海道産の甜菜糖、香辛料、ドイツ産の桜スモークチップだけで作り、保存料や発色剤などは不使用。素材の力がダイレクトに伝わる素朴で力強い味わいが楽しめます。
新鮮な肉をそのまま加工できる、という肉屋ならではの手法。徹底した衛生管理で、安全性と美味しさを両立しています。
自然の力でじっくり熟成させるからこそ、素材が持つ力強さと繊細さがダイレクトに味わえるのです。

定期的に工場で開催されている「人気のウインナー作り教室」と「田嶋さんが開催する生ハム塾」。地域を巻き込み、実際に体験していただくことでファンを増やす取り組みに繋げている。生ハム塾は遠方からの申し込みも多いという。
太良町の物語を一口に詰めこんで
秋田の金子さんとの出会いがなければ生まれなかったかもしれない、佐賀・太良町発の長期熟成生ハム。豚肉本来のうま味を最大限に引き出す添加物不使用へのこだわりは、「家族に安心して食べてもらいたい」という田嶋さんの信念から始まっています。
月の引力が大きく作用する有明海と、そこから吹き込む潮風、多良岳山系の清涼な風。その両方が合わさった独特の気候で仕上げられた熟成の結晶は、特別な日のメインディッシュにも、自分へのご褒美にもぴったり。「こんな生ハムが日本で作れるなんて!」という感動を、ぜひ実際に口にして味わってみてください。時の経過とともに深まるその味わいが、あなたのテーブルに新たな物語を添えてくれるはずです。

